総合病院勤務時代(国際親善病院勤務)には、年間1000件近くのお産に携わり、多くの妊婦さんの妊婦健診をしておりましたが、その中でよく受ける質問の一つが妊娠中の薬の服用についてです。開業してからも、つい先日、のどあめを食べて心配になられてお電話を下さった方もいらっしゃいましたので、妊婦さんの不安を少しでも解消するために、妊娠中の薬の服用についてまとめることに致しました。
薬の服用で特に注意が必要なのは、妊娠4〜12週と言われています。
この時期は体の中枢神経をはじめ、心臓や手足などの主要な器官の形成時期にあたるからです。妊娠がわかる前に飲んでしまった風邪薬や胃薬などで、赤ちゃんへ影響を与えてしまう薬の種類はごくごくわずかです。定められた容量・回数で服用した場合、あまり神経質にならなくとも大きな心配はありません。
しかし、妊娠が明らかになった後、お腹の赤ちゃんを守れるのは第一にお母さんです。適切な知識を身に付けるとともに、妊娠が判明したあとは自己判断で薬を飲まずに、かかりつけの医師にまず相談をするようにしましょう。
当院に通院中の妊婦さんは電話でもお答えしております。お気軽にお問い合わせ下さい。
妊娠中・妊娠予定の方の薬の服用Q&A
- 妊娠しているとは知らずに市販の感冒薬を飲んでしまいました。胎児へ影響はありますか?また、妊娠中に風邪をひいた場合、市販の葛根湯などの薬であれば飲んでも大丈夫でしょうか?
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市販の総合感冒薬は、病院で処方される薬と比べますと含有量が少なめで薬の効き目もおだやかなので、胎児に奇形を引き起こす可能性は低いと考えられます。したがって、妊娠初期にそうと気づかずに少量服用した場合などに妊娠中絶などを考慮する必要はありません。
ただし、市販の総合感冒薬の中にも、解熱鎮痛在、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬など大量に服用すると、おなかの赤ちゃんに影響を及ぼす成分が含まれているものもあります。これらの中には、長期連用や妊娠末期の服用で問題になる成分がありますので、自己判断による服用は避け、必ず産婦人科専門医に相談してください。
また、漢方の葛根湯などのなかにも、まれに成分や量によっては悪い影響が出るものもあります。「漢方=安全、副作用ゼロ」の誤ったイメージをもたれる方がいらっしゃいますが、漢方薬については、欧米ではほとんど使用されていないため、悪影響を含めた使用例の報告が乏しいだけで、安全性が証明されているわけではありません。
妊娠中にひどい風邪を引いてしまった場合には、安易に自己判断で薬を飲まずに、必ず産婦人科の専門医に相談の上、症状にあった薬を処方してもらうようにしましょう。
- 妊娠中は頭痛薬や胃薬を飲んではいけませんか?
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いいえ、そんなことはありません。妊娠中であっても、アセトアミノフェンなどの痛み止めを使用することが可能です。アセトアミノフェンは使用経験が長く、これまで妊婦さんにアセトアミノフェンを投与して、胎児に悪影響があった事例は報告されていません。
しかし、長期大量投与では母体に影響を与えかねなく、また同じ痛み止めとはいっても、アスピリンなどの痛み止めは胎児に影響がありますので、痛み止めを服用する際には安易に市販の痛み止めを服用することは避け、必ず産婦人科医に相談しましょう。
胃薬については、市販の胃薬はとくに影響がないと言われていますが、産婦人科では特に妊婦さんや胎児に問題のない薬を選んで処方致しますので、産婦人科の専門医にご相談されることをおすすめいたします。
- 妊娠初期に流産してしまいました。市販の風邪薬や胃薬を飲んだので、これらが影響しているのでしょうか?
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妊娠とは気づかずにまたは妊娠初期に市販の総合感冒薬などを服用しても、そのために奇形の発生率や危険度が上がるとは考えにくく、このために流産する可能性は低いです。
ただし、一般薬品の中にも長期連用や妊娠末期の服用で問題となる成分もありますので、妊娠中または妊娠の可能性のある方は自己判断しないでお問い合わせ下さい。
- 妊娠中、便秘薬を飲んではいけないでしょうか?
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妊娠初期は、胎盤より分泌されるプロゲステロンが作用し、便秘が誘発されやすくなります。さらに妊娠後期には大きくなった子宮によって腸管が圧迫され、便秘がさらに誘発されます。
妊婦は、どんなに苦しくても便秘薬を飲んではいけないのでしょうか?いいえ、そのようなことはありません。そもそも、便秘薬の成分がおなかの赤ちゃんに悪影響を与える心配はほとんどといって良いほどありえません。
しかしながら、中には妊婦には効き目が強すぎる薬があり、急激な腹痛を伴ったりするため、お腹の赤ちゃんに良い影響を与えない薬があることも事実です。処方については必ず産婦人科医に相談しましょう。
妊娠をして、便秘が続くようであれば、まずはウォーキングなどの妊婦に適した運動を行い、繊維成分の多い食事を摂取し、十分な水分補給を行うようにしましょう。
- 花粉症なのですが、点眼薬、点鼻薬は妊娠中に使用しても大丈夫ですか?
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耳鼻科や眼科、産婦人科で処方される点鼻薬や点眼薬は基本的には局所治療の目的で、限られた部分にだけ作用する薬です。医師から指示された回数・量を守って使用する限りは、胎児へ影響が無い場合がほとんどです。
しかし、点鼻薬の中には、鼻粘膜から薬を吸収させ、全身へ吸収されて効果を発揮する薬もあり、全ての薬が安全と言い切れる訳ではないので、不安に感じた場合はすぐにお問い合わせ下さい。
- 皮膚科で塗り薬(ステロイドなど)を処方されました。赤ちゃんへの影響は大丈夫でしょうか?
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皮膚から吸収されるものも、局所治療の目的で皮膚から体内に吸収される量はごく少量なので基本的には問題ありません。まれに何らかの治療で、ステロイドなどの大量投与が必要な場合は、必ず産婦人科の専門医にご相談下さい。
- 妊娠中に産婦人科で薬を処方されました。赤ちゃんのことを考えると飲みたくありません。
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何らかの病気によって、母体や胎児にダメージを及ぼすと判断した場合、産婦人科医は薬の効能と赤ちゃんへの影響、副作用などの可能性を考えて慎重に判断し、薬を処方致します。妊娠中に産婦人科医から処方される薬は、長年使用されてきてその安全性が証明されているもの、リスクが少ないものがほとんどです。
これらの薬は、薬を服用することによるデメリットよりも、服用しなかった場合のリスクの方が高いと判断し、母体と胎児を守るために処方されています。おなかの赤ちゃんへの影響を気にするばかりに、処方されても薬を服用しなかったり、自分の判断で中断したりすることはやめましょう。
薬の服用に対して疑問や不安がある場合は、遠慮しないで産婦人科医に相談し、納得いくまで十分な説明をうけるようにしましょう。
- 陣痛促進剤を使いたくないのですが・・・
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陣痛促進在や誘発剤は、その副作用被害が数多く報じられているので、怖いイメージがありますが、実際にはこの薬のおかげでメリットが減っているということもあります。
陣痛促進剤を使わずにすめばそれに越したことはありませんが、陣痛促進剤を使ったほうが母体にも赤ちゃんにも負担が少なくなる場合もあるのです。またお産の過程で何らかのリスクが生じ、陣痛促進剤を使ったほうがより安全にお産できる場合などもあります。
出産中、お母さんも苦しいように、あまりに長引くと赤ちゃんの呼吸が弱くなってしまうこともあるのです。また、実際、陣痛促進剤のおかげで帝王切開ではなく経膣分娩できたということも多いのです。
産婦人科の医師はそのあたりを適切に見極め、必要な時に必要なだけ、陣痛促進剤を使用しますので、あまり不安がらずに専門家に任せましょう。まずはお産を担当する医師と良く話し合い、率直に疑問をぶつけてみましょう。
- 最近までピルを飲んでいたのですが、赤ちゃんは大丈夫でしょうか?
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ピルをやめたすぐあとに妊娠しても赤ちゃんは大丈夫です。かつては、ピルを飲んでいると、卵子に異常が起きてトラブルが多くなると言われたことがありましたが、現在のピルではそのようなことはありません。
ピルのホルモンは飲んだあと2~3日で排泄されてしまうので、その作用がいつまでも続くとは考えにくいのです。ピルに使われているホルモンは不妊治療に使われることもあるものです。安心して大丈夫です。