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子宮内膜症とは

子宮内膜症

子宮内膜症は、ホルモンによって増殖と剥離(=はがれおちること、つまり生理)を繰り返している子宮内膜の組織が、何らかの原因によって子宮内腔以外の子宮の筋肉や卵巣や膣腔内などの異なる所に発生してしまう病気です。

本来、子宮内膜というのは子宮の中にしかあってはいけない組織ですが、子宮内膜から外に出て、例えば卵巣・卵管・子宮の筋肉の壁・腹腔中などに存在していまいます。

卵巣ホルモンの影響で、妊娠が成立しなかった場合に月に一回出血を認めるのが生理です。子宮の内腔での出血は、生理という血液の逃げ場所となります。

しかしながら、子宮内膜が発生してしまった卵巣や卵管などには血液の逃げ場所がないため、時間が経つにつれ子宮の内膜の組織が徐々に増大してしまうのです。また、腹腔中に増えた場合、炎症や痛みを引き起こしてしまいます。

子宮内膜と同じ組織なので、女性ホルモンの影響を受けて同じように増殖するものの、はがれおちて外に出る場所がないため、その場所で毎月大きくなり激しい痛みを引き起こすのです。

卵巣の中にたまった血液は、チョコレートのように見えるのでチョコレート嚢腫とも呼ばれます。だいたいの場合は良性ですが、まれに悪性のこともあるので手術をおすすめすることもあります。

子宮内膜症は、エストロゲン依存性疾患であり、月経がある期間(閉経まで)は病気と向き合っていかなければなりません。

子宮内膜症の増加の原因は?

子宮内膜症は、生涯の月経量が多ければ多いほどリスクが高くなるといわれています。現代では、昔の女性と比べて初潮の低年齢化や晩婚化、少子化などで、一生のうちで女性が経験する月経の回数が著しく増えています。

昔の女性は初潮をむかえるとすぐに結婚し、出産・授乳を頻繁に繰り返していたため、一生のうちで約50回くらいしか生理がなかったといわれています。

しかし、現代の女性は結婚の高齢化、少子化の上、粉ミルクなども発達しています。さらに初潮が低年齢化していることもあり、現代女性が一生のうちにむかえる生理の回数は、昔の女性の約9倍にもなっていると言われています。

そのため、生理が来ない=子宮がお休みをする期間がとても短くなっています。これが、子宮内膜症が性成熟期(20〜40代)の女性に非常に増えてきている理由であると考えられています。

子宮内膜症と妊娠

子宮内膜症は、生理がある間の病気で、閉経後はだんだんとよくなっていきます。逆に、月経がある間は月経のたびに悪くなります。妊娠中は月経がありませんから、妊娠するとそのサイクルがいったん止まり、治ったり症状が軽くなります。

内膜症が悪くなると妊娠しにくくなるため、内膜症の初期と診断されている方でお子様をご希望されている方には、早めの妊娠をおすすめします。

子宮内膜症は、放っておくとどんどん症状が進み、周囲の臓器や組織と癒着をおこし、月経以外の時にもひどい腹痛を起こすようになります。発生の場所が卵管や卵巣だったりすると、炎症や癒着を起こし、不妊症の原因にもなりえます。

さらに子宮腺筋症の場合には、妊娠しても流産を繰り返してしまうことがあります。月経痛で市販の痛み止めを服用しても、毎月寝込むようなひどい痛みがある時には、必ず婦人科を受診して下さい。内膜症は閉経までは基本的には進行してしまう疾患なので、できるだけ初期の段階から我慢せずに早めに治療を行っていくこ とが重要です。

子宮内膜症の症状

  • 月経を重ねるごとに増強する生理痛、腰痛、骨盤通
  • 生理痛以外でも下腹通、腰痛
  • 排泄時や性交時にも痛み

このように、月経を重ねるごとに次第に強くなる月経痛、月経量の増加、骨盤痛、性交時痛、排便通が、子宮内膜症の症状といえるでしょう。

子宮内膜症の検査・診断

問診と内診

子宮内膜症の問診

子宮内膜症の症状が疑われた時には、まずは痛みや症状について、どういう時に痛いか、どのような痛みか、生理の状況はどうかを問診させていただきます。

月経痛が強い、生理の量が多い、生理以外でもお腹の痛みが強い、排便痛、性交時の痛みがあるなど、特有の症状があるかどうかをお聞きします。

次に内診をします。内診によって、子宮の大きさや直腸などへの癒着の有無がわかります。子宮内膜症で子宮の筋肉の中に子宮内膜が飛び火し、子宮腺筋症を起こしている場合には、筋肉の増大により子宮の大きさそのものが大きくなります。内診によりこれを見極めることができるのです。

チョコレート嚢腫の場合には、卵巣が大きくなっていることがありますので、内診によって卵巣の大きさもわかります。

院長のこれまでの経験では、子宮内膜症の場合には子宮全体の可動性(動き)が悪いことが多いです。また卵巣に癒着が見られることもあり、経験を積んだ医師であれば内診の感覚(=子宮の動き具合や癒着の感触)で子宮内膜症かどうかを判断することが出来る場合もあります。

超音波検査

子宮内膜症の超音波検査

内診した結果を詳しく確認するために、次に超音波検査を行います。超音波検査にて腺筋症であるか、チョコレート筋腫であるかを、子宮筋腫の有無を含めて確認します。

子宮筋腫の場合は超音波によってコブが見えますが、コブがみえるわけではないのに子宮全体が大きくなっているときは、子宮腺筋症を疑います。また、超音波検査で卵巣が明らかに大きいと判断される場合には、チョコレート嚢腫を疑います。

子宮腺筋症と卵巣のう腫以外の子宮内膜症については、超音波では判断が出来ないことがあります。100%正確な診断を下すためには、全身麻酔下での手術による腹腔鏡検査が必要になります。

しかし、子宮内膜症の診断を下すためだけに、わざわざ患者さんにとって負担・苦痛の多い腹腔鏡検査を全身麻酔をかけて行うということは、現実的な選択肢とはいえません。ですので、子宮内膜症の検査は主に超音波を用いて行われています。

その結果、超音波で明らかな卵巣の腫れが見つかったり、子宮がはれぼったくなっていたりすれば「子宮内膜症の疑いが強い」と判断して治療を行っていくことが一般的です。

MRI

超音波で子宮や卵巣嚢腫の大きさや位置が判断できない場合には、MRIを用いて更に詳しく検査を行うことがあります。

子宮内膜症の場合には、MRI検査のCA125という腫瘍マーカーの値が高くなるため、血液検査によってCA125で診断の精度を高めることもあります。CA125の値を見るときには、一回だけでなく数回にわたり検査を行なって、血液検査の値が時間(日付)によってどのように変化していくかを観察し、子宮内膜症の活動性を見ることもあります。

なお、検査の目的だけで腹腔鏡手術による検査をすることはあまり多くはありません。しかし、不妊症の治療を希望されている場合などには、内膜症は不妊の大きな原因の1つであるので、腹腔鏡検査を行うことがあります。

子宮内膜症の薬物療法

子宮内膜症の治療方法は年齢症状の度合い、病変の部位、妊娠の希望の有無などを総合的に考慮します。子宮内膜症の薬物療法には以下があります。

最近では、優先度として1→3の順によく使用されます。

  1. 低用量ピル
  2. 偽閉経療法(Gn‐RHアゴニスト)
  3. 黄体ホルモン療法(ジェノゲスト)など

1.低用量ピル

低用量ピル

低用量ピルを服用することによって、一定量の女性ホルモンを常に体内に入れることになります。それによって、脳の視床下部は女性ホルモン(エストロゲン)を出しなさいという司令を行わなくなります。

通常の生理では、体内で作られるエストロゲンにより排卵が起こり、排卵後はプロゲステロン(体内で作られる黄体ホルモン)の作用で分厚くなった内膜が柔らかくなって、 受精卵が着床しやすいように変化します。

しかし、ピルの場合は外から人工的なエストロゲンが常に体内に入ってくるため、体のほうがエストロゲンを作るのをやめてしまいます。エストロゲンの総量が低く抑えられ、その結果として排卵が抑制され子宮内膜が厚くならないというわけです。

ピルを服用することによって排卵を抑制し、妊娠している状態に近くなりますので、子宮内膜症の症状を軽減させることができ、予防にもなるのです。子宮内膜症の治療におけるピルの使用頻度は高いです。

ただし、副作用として嘔気・不正出血などが飲み始めの1~2か月はある方もいらっしゃいますが、次第に回復します。ごくまれに血栓症の可能性がありますので、服用に関しては注意事項を守ってください。

ピルはしっかり管理していれば服用期間の制限はありませんので、長い間使うことが出来ます。確実に避妊が必要だけれども月経痛がひどい場合には、子宮内膜症の予防を兼ねて月経困難症の方に対してもピルを内服することを私はおすすめしております。

最近では、初潮年齢の低年齢化に伴い、子宮内膜症が徐々に若年層に増えているため、思春期の月経困難症に対しても、子宮内膜症の予防として、低用量ピルを使用することをすすめております。思春期の患者様の場合には、父母や本人の意見を聞き、慎重に処方することも非常に大切だと考えており、ご希望なさらない場合には強くすすめることは致しません。医学的には有効だとはご説明させていただいております。

2.偽閉経療法(リュープリン・ナサニール、スプレキュア)

偽閉経療法(リュープリン・ナサニール、スプレキュア)

症状が重く、手術の適用があり、手術までに少しでも症状を緩和する必要がある場合などには偽閉経療法を行います。

偽閉経療法は、女性ホルモン(特にエストロゲン)を抑制し、更年期~閉経状態にする治療法です。この薬を使用すると、女性ホルモンが抑制されるため視床下部が閉経だと思い込み、月経を抑えることにより月経困難症を抑えられます。子宮内膜症、卵巣のう胞や子宮腺筋症の縮小が期待できます。

副作用としては、女性ホルモンが抑制されるため更年期障害の症状や骨密度の低下を認めます。連続して使用してよい期間は6か月間と短く、この期間を超えて使用を続けることは出来ません。

3.黄体ホルモン療法(ジェノゲスト/ディナゲスト)

黄体ホルモン療法

ピルだけで改善が見られない場合には、黄体ホルモン療法を行います。偽閉経療法は、ワンクールが6ヶ月以内と制限されるため、長期にわたって治療を行う必要があります。

黄体ホルモン療法とは、女性ホルモンの「黄体ホルモン」のみを服用し続ける治療法です。服用継続により月経量が少なくなるため、内膜症病変は縮小されていきます。

黄体ホルモンというのは、生理で子宮内膜をはがす時に分泌されるホルモンであるため、服用開始から3~6か月の間不正出血が続くという副作用があります。

3~6か月もの長期の間にわたって不正出血が続くということは貧血などの深刻な副作用も出やすいです。使用にあたっては医師と綿密に相談を行い、きちんとした副作用対策を行うことが重要です。

なお、副作用対策をきちんと行うことが出来てこの治療法が身体に合う方は、黄体ホルモン療法はピルと同様に長期間の服用・治療が可能です。

子宮内膜症の手術

子宮内膜症で、手術を行う場合は基本的には、卵巣の正常部分を残して内膜症の部分のみを摘出することが多いです。正常部分が明らかでなく、正常部分を残しても再発のおそれがある場合には、卵巣や子宮そのものを摘出することもあります。

例として、卵巣嚢腫が大きくて4~5センチを超えた場合(病院によって判断基準が異なります)に卵巣そのものを摘出します。

また、内容物がお腹の中に漏れて炎症を起こしたりするようなおそれがある場合や、明らかに子宮が増大し症状が強く、妊娠を望まない方には子宮の摘出手術を行うこともあります。

手術を必要とするかどうか、どのような手術方法を選択するかの判断は経験を積んだ医師であってもなかなか難しく、一概に正解といえるものはありません。

例えば子宮腺筋症の場合には、部分的な切除を行っても、出血が多量になり困難な手術となるリスクが高い上に再発するケースもあります。

そのため、患者さんそれぞれの年齢、既婚か未婚か、どれほどの苦痛をともなう症状があるのか将来的に妊娠を望んでいるのかどうか、などを総合的に判断しながら慎重に決断を下す必要があります。

参考:院長がこれまでに経験しためずらしい症例

月経時になると呼吸困難を起こす

毎月、生理になると呼吸困難を起こして(当時院長が勤務していた国際親善総合病院の)外来にいらした患者様がおられました。呼吸器外科が原因を調べたところ、子宮内膜組織が肺に飛び火し、気胸(肺に穴があいている状態)を毎月起こしていたことがわかりました。

この方は、子宮内膜組織を切除して、しばらく リュープリンを使用し生理を止めました。

月経時に臍周囲から出血

生理の度に、臍(ヘソ)の周囲から出血をされる患者様がおられました。臍(ヘソ)周囲の皮膚の切除を行いましたが、再発する可能性があるとしてフォローアップを行いました。

月経時に血便が出る

これは時々見られるケースですが、腸に内膜症が発生し、月経時に血便が見られる患者様もいらっしゃいます。

ただし、上記のように子宮内膜が他の器官に発生してしまう原因は今のところ明らかになっておりません。